通勤手当は社会保険の計算対象となっています。社会保険料を算出するために必要な「標準報酬月額」の計算は、短い期間に大勢の従業員を対象に行わなければならない大変な業務です。
そこで、社会保険料の算定における標準報酬月額について確認しつつ、業務遂行の上で見落とされがちな注意点を解説します。
今回は特に通勤手当として定期代を支給している会社の場合を見ていきます。
社会保険料を計算するためには、通勤手当の正確な管理が必要です。計算の元となる金額が違うと、当然標準報酬月額も変わってしまいます。標準報酬月額を誤った場合に発生する以下の影響を防ぐために正確な管理を心がけましょう。
影響①罰則
虚偽の届出をすると、健康保険法や厚生年金保険法に基づき罰則が科される可能性があります。
影響②社会保険料の控除額
翌年の算定基礎反映までの1年間は、誤った標準報酬月額で社会保険料を控除することになります。
影響③将来の年金受取額
将来受け取る年金額にも影響が出る可能性があります。
影響④従業員との信頼関係
従業員の給与や将来の年金にも関わるため、従業員との信頼関係を損なう可能性があります。
毎年7月に行われる社会保険料(健康保険・厚生年金保険・介護保険)の見直し。
各従業員の社会保険料額を決定するための「算定基礎届」を作成する際に、一人ひとりの標準報酬月額を算出して記入する必要があることは多くの方が認識されているでしょう。
届出直前の3ヶ月間(4月~6月)に支払われた「報酬」の平均月額を計算し、その額を標準報酬月額表*¹にある等級区分に当てはめ、社会保険料額を算定しています。これは「定時決定*²」と呼ばれ、その年の9月から翌年8月までの間適用されることになります。
なお、この間に被保険者の報酬が大きく変動した場合には、あらためて算定し月額変更届を提出する「随時改定」も設けられています。
標準報酬月額の算出において注意すべきことは、まず報酬に該当するものは何かを把握しておくことです。
基本給はもちろんのこと、各種手当等も算定基礎に含まれるため、漏れがないように確認しましょう。
日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック令和7年度」より
*¹ 参考「全国健康保険協会(協会けんぽ)令和3年度保険料額表(令和3年3月分から)」
*² 参考「日本年金機構 定時決定(算定基礎届」
標準報酬月額をもう少し詳しく解説します。
標準報酬月額とは健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料を算出する際に基準となる金額のことを指します。
被保険者が会社から支給される報酬の月額を等級と呼ばれる区分に当てはめ、標準報酬月額が設定されています。等級ごとに報酬月額の幅があるため、実際に支給されている報酬の額と標準報酬月額が一致するわけではありません。被保険者の報酬が上がり等級が上がると、保険料も高額になります。
報酬とは賃金、給料、手当、賞与などの名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのものを指します。通勤手当も手当の1種のため、現金支給、現物支給に関わらず報酬に含まれます。
また、通勤手当には所得税に関わる「非課税限度額」がありますが、標準報酬月額を設定する際は非課税に該当するかは関係なく”全額”が対象になります。
通勤手当の支給方法は会社によって異なります。それぞれの影響の違いを見ていきましょう。
1ヶ月定期代支給の場合は、そのまま支給額を計上します。
3ヶ月定期代支給、6ヶ月定期代支給の場合は、定期代を通用期間の月数で按分計算し1ヶ月分の金額を算出して計上します。
社会保険料計算の手間を考えると、1ヶ月定期代支給は楽です。しかし、実際にはコスト削減のために6ヶ月定期代支給をされている企業が多いので、多くの企業では按分計算が必要になります。
標準報酬月額を決める際は、定期代支給と実費支給のいずれも全額が対象になるという点は同じですが、定期代支給は固定額、実費支給は変動額という違いがあります。
そのため、実費支給の場合は社会保険料計算に用いる4~6月に支給した通勤手当が他の月より大きいと等級が上がり保険料が高額になる可能性があります。
労働への対価である報酬は毎月一定額とは限りません。残業の増減や手当の有無が発生するからです。
また、異動や転勤が多い時期は、勤務先の変更や従業員の転居によって定期券の変更や解約が発生し、通勤手当の変動も多くなります。
通勤手当以外の給与項目については、多くの企業で給与計算ソフトや就業・勤怠管理ソフトを導入しているため、残業などによる変動はシステム上で簡単に計算・管理ができているようです。
しかし、通勤手当はExcel等で手作業による計算・管理をしていることが多いです。
これをさらに社会保険料の標準報酬月額へ反映させるのは手間がかかりますが、皆さんの会社ではどのように処理しているでしょうか。
先述の通り社会保険料額を決定するための「算定基礎届」は定時決定として7月に提出しますが、その後報酬が大きく変動した場合には、随時改定として「月額変更届」を提出する必要があります。
住所変更などによる通勤経路変更の結果、金額が大きく変動し随時改定が必要となるケースもあるので注意が必要です。
通勤手当が大きく変動した際は、変更のあった月から3ヶ月間の平均額を再評価し、2等級以上の変動があった場合は随時改定の要件を確認し「月額変更届」を提出しましょう。
再計算のタイミングは、変更後4ヶ月目の給与支給前までが目安です。
月ごとの通勤手当を計算する方法を、実例を挙げて解説していきます。
毎月1ヶ月定期代を支給している場合は、そのまま支給額を計上します。
3ヶ月定期代や、6ヶ月定期代などの複数月分の金額を1度に支給している場合は、1ヶ月分の金額に按分計算します。具体的には、支給した定期代を、定期の通用期間の月数で割ります。この時発生する端数は、支給月に上乗せして処理します。
【条件】
・6ヶ月(4/1~9/30)50,000円の定期代を4月に支給次は月替わりのタイミングでキリよく定期券を切り替えた場合の例を見てみましょう。
【条件】
・6ヶ月(4/1~9/30)90,000円の定期(ひと月当たり15,000円)を購入していた社員が5月末に転居【計算式】
〈期間の総額〉15,000円(4月)+15,000円(5月)+7,500円(6月)=37,500円
〈月の平均額〉37,500円÷3ヶ月=12,500円*
*平均額の計算・出力は、らくらく通勤費では行いません。連携先の給与システム側での計算となります。
計算自体は比較的簡単ですが、変動前と変動後の金額を一人ずつ計算しなければなりません。
対象となる従業員すべての計算を行うと膨大な時間がかかる場合があります。
また、複数の鉄道定期券やバス定期券も利用している場合は、定期券ごとに計算が必要となります。
さらに厄介なのが、月の途中で定期券を解約し、月中は日割り精算が発生、翌月から新たな定期券を購入・利用し始めた場合です。実際にはこのケースが多いのではないでしょうか。
この場合会社の規定によって処理の仕方は異なりますが、一般的な計算方法を例とします。切り替えを5月の月途中として計算をすると下記の通りとなります。
【条件】
・6ヶ月(4/1~9/30)90,000円の定期券(ひと月当たり15,000円)を購入していた社員が、5月上旬に10日間通勤して転居(月中で鉄道定期券を解約しても、払い戻しは月割計算)
・転居後5月は10日間通勤し日割り計算(片道250円×往復2×10日)
・6ヶ月(6/1~11/30)45,000円の定期券(ひと月当たり7,500円)を新規購入
・5月給与では定期代解約の払い戻し金額と新定期代の差額を精算。6月給与にて10日分の日割り額を支給
【計算式】
〈期間の総額〉15,000円(4月)+20,000円(5月の日割り精算)+7,500円(6月)=42,500円
〈月の平均額〉42,500円÷3ヶ月=14,166円 端数2円*
*平均額の計算・出力は、らくらく通勤費では行いません。連携先の給与システム側での計算となります。端数をどの月に計上するのかは自社で定められ規定に則って処理します。
日割り精算を含むと、定期代支給のみよりも計算はさらに面倒になりました。
この計算を手計算で何人も処理するのは簡単でなく、社会保険料の計算は限られた短い期間で行うのでミスも発生しやすくなります。
今回は通勤手当の社会保険料計算を解説しましたが、いかがでしたでしょうか。改めて客観的に見ると、手作業でやることではないと感じるのではないでしょうか。年に1度のこととして我慢していても、できれば毎年起こる大きな負担はなるべく取り除きたいものです。
通勤費管理システムの「らくらく通勤費」なら、社会保険料のための月額の計算を自動化することができます。もちろん各通用期間の定期代支給、実費支給にも対応しています。
定期券の払戻計算、適正な経路での申請承認、申請忘れ等で発生する遡及計算等も行えるので、通勤手当に関する業務工数を大幅にカットします。給与計算システムや就労・勤怠管理システムとのデータ連携もできます。
手計算やExcelでの管理は、ミスの防止、適正管理、新担当者への引継ぎ等の面でも課題が多いです。
課題が明確になっていない場合でも、個社ごとの運用に合わせたWebご説明を常時行っておりますのでシステム化が自社に合っているかをご判断いただきやすいです。まずはお気軽にお問い合わせください。
今回は主に定期代支給の場合の社会保険料の算定について解説しました。
別のコラムで、通勤手当を実費支給している場合の社会保険料の算定について解説しています。