雇用保険料の計算に通勤手当(通勤費)は含める?計算方法を解説

この記事の目次

企業に所属し、一定の条件を満たす従業員は必ず雇用保険に加入する必要があります。そのため、企業の給与計算担当者は雇用保険料の計算方法を正確に把握しなければなりません。中でも「通勤手当」を賃金に含めるかは混乱しやすいポイントです。本稿では、雇用保険の基本から、通勤手当の取扱い、雇用保険料率、雇用保険料の計算方法などを解説します。

「雇用保険」と「雇用保険料」について

雇用保険は、企業に雇用されている人が加入する社会保険の1つです。
まずは、「雇用保険」の制度の概要と条件、「雇用保険料」の概要を説明します。

雇用保険とはどんな制度なのか

雇用保険とは、働く人が失業・育児休業・介護休業などで収入が減少した際に給付金で生活を支えたり、キャリア形成を目的とした学習に教育訓練給付金を支給したりする公的保険制度です。

企業は、1人でも従業員を雇用すると雇用保険の「強制適用事業所」とみなされます。(一部の農林水産業を除く)
適用事業所の従業員は、後述する”雇用保険に加入する条件”を満たしている場合、加入する(被保険者になる)ことが法律で義務付けられています。

個人経営の農林水産業は、従業員数が常時5人未満(漁業は船員を除く)の場合「強制適用事業所」ではなく「暫定任意適用事業所」に該当します。「暫定任意適用事業所」は、雇用保険への加入が任意となりますが、労働者の半数以上が希望すれば加入が義務になります。

雇用保険に加入する条件

雇用保険へ加入する主な条件は次の2点です。
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・31日以上の雇用見込みがある

ただし、上記の要件を満たしていても、季節的に一定期間のみ雇用される方など、一部被保険者とならない場合がありますので詳しくは厚生労働省のホームページをご覧ください。
参考:厚生労働省「Q&A~事業主の皆様へ~」

雇用保険料とは「雇用保険の掛け金」

雇用保険料とは、雇用保険制度における「掛け金」のことです。労働者が失業や育児休業などで収入が減少した際の給付や、労働者の能力開発をするための財源となります。
雇用保険料の計算は、従業員と事業主それぞれに対して法律で決められた雇用保険料率を、支給される給与や賞与などに掛けて行います。保険料率は業種や年度で異なり、事業主と労働者が一定割合を分担します。つまり、雇用保険料は将来の生活保障や再就職支援のための積立金であり、雇用保険加入者全員が支える仕組みです。

雇用保険料の計算に通勤手当は含める?

雇用保険料計算の対象になる賃金は、税金その他の社会保険料等を控除する前の総賃金です。
給与、手当、賞与のいずれの名称でも労働の対価として支給されるすべての手当が対象となりますので、通勤手当も含まれます。所得税の非課税限度額内の通勤手当も、雇用保険料の計算では全額が対象です。

ただし、業務上の出張費や一時的な実費弁償については、「労働の対償ではない」として賃金に含まれず、雇用保険料の対象外となります。

在宅勤務においては、労働契約上の勤務提供地がどこかにより取り扱いが変わります。
例えば、労働契約上の労務提供地が「自宅」である在宅勤務者が一時的に出社した際の交通費は、実費弁償扱いで除外されますが、労働契約上の労務提供地が「会社」である場合は通勤手当という扱いになるため雇用保険料の計算対象になります。

通勤手当以外に含まれる手当

通勤手当以外で雇用保険料計算に含まれる手当には、基本給や深夜手当、扶養手当、技能手当、住宅手当、奨励手当などがあり、労働の対価として支給されるすべての手当が該当します。
逆に、出張旅費や実費弁償、傷病手当金など労務対価でないものは含まれません。

通勤手当は非課税限度額内であれば所得税が課せられない

先にも触れた通り、通勤手当は全額が雇用保険料計算の対象ですが、所得税の計算では一定額まで非課税です。非課税限度額についても簡単に説明します。

下記の表のように、通勤手当は一定の条件を満たしていれば、課税所得の対象外となります。金額や距離に加え「最も経済的かつ合理的な経路および方法」という基準のもと非課税かを判断します。
定期代などでは、1ヶ月当たり15万円が非課税です。新幹線通勤は妥当性があれば非課税と認められますが、グリーン料金は課税となります。また不必要に遠回りの経路と判断された場合も「最も経済的かつ合理的」の基準から外れるため課税となります。

非課税限度額
区分 課税されない限度額
1.交通機関又は有料道路を利用している人に支給する通勤手当 1ヶ月当たりの合理的な運賃等の額
(最高限度 150,000円)
2.自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当 最大38,700円
3.交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券 1ヶ月当たりの合理的な運賃等の額
(最高限度 150,000円)
4.交通機関又は有料道路を利用するほか、交通用具も使用している人に支給する通勤手当や通勤用定期乗車券 1ヶ月当たりの合理的な運賃等の額と2の金額との合計額 (最高限度 150,000円)

上表「2」の距離に応じた非課税限度
区分 課税されない限度額  
通勤距離が片道2キロメートル未満 (全額課税)  
通勤距離が片道2キロメートル以上10キロメートル未満 4,200円  
通勤距離が片道10キロメートル以上15キロメートル未満 7,300円  
通勤距離が片道15キロメートル以上25キロメートル未満 13,500円  
通勤距離が片道25キロメートル以上35キロメートル未満 19,700円  
通勤距離が片道35キロメートル以上45キロメートル未満 25,900円  
通勤距離が片道45キロメートル以上55キロメートル未満 32,300円  
通勤距離が片道55キロメートル以上 38,700円  

参考:国税庁「電車・バス通勤者の通勤手当」
参考:国税庁「マイカー・自転車通勤者の通勤手当」

雇用保険料率の仕組み

雇用保険料率とは、雇用保険料を計算する際に用いる割合のことです。企業が従業員に支払う賃金総額に、この料率を掛けて算出します。料率は業種ごとに異なり、一般事業・農林水産業・建設業で区分されています。
また、雇用保険料率は失業給付や育児休業給付の財源状況に応じて毎年見直され、通常は4月1日から新しい料率が適用されます。事業主と従業員が負担する割合も異なり、事業主側の負担が大きいのが特徴です。

雇用保険料率の早見表

令和7年(2025年)の雇用保険料率の早見表を例に見てみましょう。
業種により料率が異なり、労働者負担よりも事業主負担の方が大きいのがお分かりいただけると思います。この料率は毎年変動しますので、計算の際は必ず厚生労働省のホームページにて最新情報をご確認ください。

 
 

①労働者負担

(失業等給付・育児休業給付の保険料率のみ)

②事業主負担

(失業等給付・育児休業給付の保険料率+雇用保険二事業の保険料率)

①+②雇用保険料率  
一般の事業 5.5/1,000 9/1,000 14.5/1,000  
農林水産・清酒製造の事業 6.5/1,000 9.5/1,000 16.5/1,000  
建設の事業 6.5/1,000 11/1,000 17.5/1,000  
※ 園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖および特定の船員を雇用する事業については一般の事業の率が適用されます。

参考:厚生労働省「雇用保険制度」

雇用保険料の計算方法

雇用保険料の基本的な計算式は次のとおりです。
従業員負担の雇用保険料 = 給与額(賞与額) × ①労働者負担の雇用保険料率
事業主負担の雇用保険料 = 給与額(賞与額) × ②事業主負担の雇用保険料率

給与額(賞与額)は月や年により変動しますので、雇用保険料の計算もその都度行う必要があります。

端数金額(あまり)の処理方法

雇用保険料の計算時に端数が出る場合があります。その際の基本的な処理方法は、「50銭以下の場合は切り捨て、50銭1厘以上の場合は切り上げ」です。

「一般の事業」における雇用保険料の計算シミュレーション

計算式を使い、一般の事業の場合における雇用保険料の計算すると以下のようになります。

<従業員の1ヶ月の給与>
基本給:22万円
役職手当:3万円
残業手当:2万1,280円
通勤手当:1万9,190円
計:30万470円

<計算式>
従業員負担の雇用保険料: 300,470 × 5.5 ÷ 1,000 = 1,652.585円 ・・・端数処理後 1,653円
事業主負担の雇用保険料: 300,470 × 9 ÷ 1,000 =2,704.23 円 ・・・端数処理後 2,704円
※令和7年の雇用保険料率で計算

パートタイマーの場合

パートタイム勤務をしている従業員の場合も、1週間あたりの所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば原則として被保険者となります。
個人ごとの所定労働時間に注意して、加入漏れがないように注意しましょう。

雇用保険料の計算式は、先に説明したものと同一です。給与の部分は(時給×労働時間)で計算し、各種手当も加算します。

雇用保険料を抑えるポイント

雇用保険は、労働者を支える良い制度ですが、企業側にとっては大きな負担であるのも事実です。長く経営していくにあたり、必要に応じて出ていくお金を抑えるのも大切です。
企業側の雇用保険料を抑えたい場合は、以下のような方法があります。

・1週間あたりの所定労働時間が20時間以下の従業員を増やす
・派遣社員や出向社員を増やす
業務委託ができる業務は業務委託をする
・システム化等で少人数で業務を行えるようにし、従業員を増やさない

通勤手当の雇用保険計算は「らくらく通勤費」

通勤費管理システムの「らくらく通勤費」には、通勤手当の雇用保険料や社会保険料、課税額等の計算機能があります。計算結果は、CSVデータ出力も可能なので、簡単に給与システムに連携することができます。

「らくらく通勤費」は通勤手当の申請・承認・計算・管理を一つのシステムで行え、通勤手当関連の業務工数85%削減の実績があります。定期的に機能のアップデートをしているので、法令改正にも対応します。

また、鉄道・バスの運賃改定や、ガソリン単価の変更にも一括で対応できるので、変動の多い通勤手当管理をミスなく行うことができます。

まとめ

雇用保険料の計算において、通勤手当は全額対象となります。
ただし、在宅勤務者の場合は、労働契約上の勤務提供地がどこかにより取り扱いが変わるので注意が必要です。
保険料率は業種や年度で異なるため、最新情報の確認が不可欠です。毎月の給与額変動に合わせて雇用保険料の計算も毎月行いましょう。

通勤手当の雇用保険料計算や、その他計算・管理は、通勤費管理システムの「らくらく通勤費」で行えます。法令改正や料金変動などにも即時対応できますので、まだシステム化されていない企業は是非一度システム化をご検討ください。