標準報酬月額と社会保険料の関係性は?計算方法や必要な手続きを徹底解説
監修者:安森 将(やすもり社会保険労務士事務所 代表)
この記事の目次
標準報酬月額とは、社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)や、各保険給付の額の計算の際の基準になる金額です。そのため、標準報酬月額の算出は社会保険に関する業務の根幹にあたり、人事労務担当者としては確実に行うことが求められます。
本記事では標準報酬月額の定義や社会保険料の計算方法、標準報酬月額の決定や改定に関する実務などの概要を解説しますので、この内容を参考に正しく社会保険の業務を進めましょう。
標準報酬月額とは何?
標準報酬月額とは、社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)やそれぞれの保険給付(厚生年金や傷病手当金などの給付)の額を計算する際に基準となる金額です。従業員が受け取る給与などの報酬(報酬月額)を一定の幅(等級)に区分し、その区分に基づき決定されます。健康保険では50等級、厚生年金保険では32等級に区分されています。
標準報酬月額を算出するための基本の計算式
後述のとおり、標準報酬月額を算出するタイミングは複数ありますが、毎年必ず実施する定時決定では、4月・5月・6月に支払われた報酬の平均額(報酬月額)を算出し、その金額に基づきその年の9月から翌年8月までの標準報酬月額を決定します。
計算式は、以下の通りです。
報酬月額=4~6月の報酬の合計額÷3
なお、月の支払基礎日数(報酬の支払対象の日数)が不足している場合などは、調整が行われます。
例えば、ある従業員の各月の報酬が4月40万円、5月38万円、6月42万円の場合、報酬月額は
(40万円+38万円+42万円)÷3=40万円 となります。
以下の令和8年度保険料額表(協会けんぽ東京都、一部抜粋)によると、報酬月額40万円の場合、健康保険は27等級、厚生年金保険は24等級となり、標準報酬月額は41万円となります。
|
標準報酬月額等級 |
標準報酬月額 |
報酬月額の区分 |
|
健保26等級、厚年23等級 |
380,000 |
370,000~395,000 |
|
健保27等級、厚年24等級 |
410,000 |
395,000~425,000 |
|
健保28等級、厚年25等級 |
440,000 |
425,000~455,000 |
標準報酬月額に基づいた社会保険料の計算方法
本章では、標準報酬月額に基づく社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)それぞれの計算方法を解説します。なお、社会保険料はいずれも労使折半で負担します。
健康保険料の場合
標準報酬月額×健康保険料率÷2で計算します。
健康保険料率は加入している健康保険の種類(保険者)により異なります。なお、協会けんぽ(全国健康保険協会の健康保険)の場合には都道府県により健康保険料率が異なります。協会けんぽの都道府県別の保険料率や保険料額などについては、協会けんぽのホームページから確認できます。
例えば令和8年度(令和8年3月分~)の協会けんぽ(東京都)の健康保険料率は9.85%です。
したがって、例えば標準報酬月額が30万円の従業員であれば、
健康保険料月額=300,000×9.85%(0.0985)÷2=14,775円 と計算されます。
この保険料額は毎年改定されるため、計算にあたっては最新の内容を確認するよう心がけましょう。
厚生年金保険料の場合
健康保険料と同様に、標準報酬月額×厚生年金保険料率÷2で計算します。
なお、厚生年金保険料率は2017(平成29)年9月以降、18.3%で変わっていません。
前述の標準報酬月額30万円の従業員の場合であれば、
厚生年金保険料月額=300,000×18.3%(0.183)÷2=27,450円 と計算されます。
介護保険料の場合
40歳から64歳までの医療保険加入者は介護保険第2号被保険者として、健康保険料とともに給与天引きにより介護保険料を支払います。
こちらも健康保険料と同様に、標準報酬月額×介護保険料率÷2で計算します。
また、健康保険料と同様に加入する介護保険の種類(保険者)により、介護保険料率が異なります。なお、協会けんぽの介護保険料率は健康保険料率とは異なり全国一律で、最新の保険料率(令和8年3月分~)は1.62%です。この保険料率も健康保険料率と同様に毎年改定されるため、最新の内容を確認しましょう。
前述の標準報酬月額30万円の従業員の場合、
介護保険料月額=300,000×1.62%(0.0162)÷2=2,430円と計算されます。
(参照)協会けんぽの介護保険料率について(令和8年3月~)|協会けんぽ
標準報酬月額の対象・対象外の報酬
標準報酬月額は従業員に支払われる報酬の額に基づき算出します。基本給や諸手当など従業員の労働の対価として支払われるものがこの報酬にあたります。
本章では標準報酬月額の計算根拠となる報酬の対象となるもの、対象外のものについて解説します。
対象になる報酬
労働の対価として支払われる報酬、就業規則や賃金規程などに基づき定期的に支払われる報酬、食事や住宅等の現物支給などが対象となります。賞与については年4回以上に分けて支給されるものが対象です。年3回以下で支給される賞与は「標準賞与額」に基づき、賞与に対する保険料として計算します。
具体的には下表の通りです。
|
金銭により支給する報酬 |
現物により支給する報酬 |
|
基本給 諸手当(残業手当、通勤手当、家族手当、役付手当、 勤務地手当、別居手当、休職手当、休業手当など) インセンティブ 就業規則等の規程類に定める見舞金 賞与(年4回以上に分けて支給するもの) など |
通勤定期券・回数券 食事 住宅(社宅、寮など) 自社製品 など |
現物支給による報酬も金銭に換算します。このうち食事、住宅については「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」に基づき換算し、その他は原則として時価で換算します。
なお、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」は、食事については令和8年4月より、住宅については令和8年10月より新たな内容となっています。標準報酬月額の計算にあたっては、最新の情報を確認しましょう。
対象外の報酬
労働の対価として支払われない報酬、本来事業主が支払うべき実費(出張旅費など)、福利厚生の一環で事業主が恩恵的に支給するものなどは対象外となります。
具体的には下表のとおりです。
|
金銭により支給する報酬 |
現物により支給する報酬 |
|
傷病手当金、休業補償 解雇予告手当 退職手当(一時金形式のものなど) 旅費(出張旅費、赴任旅費など) 各種の見舞金、祝い金 賞与(年3回以下に分けて支給するもの) など |
食事(従業員負担額が現物給与価額の3分の2以上の場合) |
標準報酬月額の決定・改定のタイミングごとの手続き
標準報酬月額の決定や改定は、健康保険法などの法律で定めるタイミングで行われます。
そのタイミングは主に「資格取得時決定」「定時決定」「随時改定」「育児休業等終了時改定」「産前産後休業終了時改定」の5つです。本章でその内容と届出書類を含めた手続きを紹介します。
定時決定
定時決定とは、毎年1回(7月)、全被保険者の標準報酬月額を見直すための手続きです。毎年4月・5月・6月に支払われた報酬の額に基づき、9月から翌年8月まで適用される標準報酬月額を決定します。
原則として、4月・5月・6月に支払われた報酬の平均額(報酬月額)を算出し、その額を標準報酬月額の等級に当てはめます。ただし、報酬の支払基礎日数が17日未満の月(短時間労働者などは11日未満の月)は算定対象から除外されるなどのルールがあります。
対象者は7月1日現在のすべての被保険者と70歳以上被用者です。
なお、以下を除きます。
- 6月1日以降に資格取得した被保険者
- 6月30日以前の退職者
- 7月に月額変更届を提出する被保険者
- 8月、9月に随時改定が予定されている被保険者
届出書類
事業主は、毎年7月10日までに「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/厚生年金保険 70歳以上被用者算定基礎届」を作成し、日本年金機構(協会けんぽの場合)へ提出します。
なお、この届出書類は6月中旬以降に日本年金機構から各事業所に送付されます。(5月中旬までに届け出た被保険者の基本情報が反映済み)
随時改定
随時改定とは、昇給や降給、手当の変更などによって固定的賃金が大きく変動した場合に、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定する制度です。変更後の報酬を受けた月から起算して4か月目の標準報酬月額から改定されます。
随時改定により決定された標準報酬月額の適用期間は以下の通りです。
1月~6月の間の随時改定:その年の8月(9月以降分は定時決定による)
7月~12月の間の随時改定:翌年の8月
随時改定は、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 昇給または降給などにより、固定的賃金に変動があること
- 変動後の固定的賃金が支払われた月以降3か月間の報酬の平均額と、従前の標準報酬月額との間に原則2等級以上の差があること
- 3か月間すべての報酬の支払基礎日数が17日以上(短時間労働者などは11日以上)あること
固定的賃金とは、基本給、役付手当、住宅手当など、毎月一定額が支給される賃金のことです。一方、残業時間の増減による時間外手当のみの変動は、原則として随時改定の対象とはなりません。
届出書類
事業主は上記の要件を満たした場合には速やかに「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」を日本年金機構(協会けんぽの場合)へ提出します。
資格取得時決定
資格取得時決定とは、従業員が新たに健康保険・厚生年金保険の被保険者資格を取得した際に、標準報酬月額を決定する手続きです。
入社時など、実際に支払われた給与の実績がない場合は、就業規則や雇用契約書などの給与(基本給、手当など)の金額に基づき、報酬月額を算出します。その金額を標準報酬月額の等級表にあてはめ、資格取得時の標準報酬月額を決定します。
資格取得時決定により決定された標準報酬月額の適用期間は以下の通りです。
1月~5月の間の資格取得:資格取得月~その年の8月(9月以降分は定時決定による)
6月~12月の間の資格取得:資格取得月~翌年の8月
なお、入社後に固定的賃金が変更される場合などは、随時改定の対象となる可能性があります。
届出書類
従業員が被保険者資格を取得した日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を日本年金機構(協会けんぽの場合)へ提出します。
育児休業等終了時改定
育児休業等終了時改定とは、育児休業から復帰した従業員が会社に申し出ることで、復帰直後に短時間勤務制度の利用などで給与額が低下した場合に、これを反映する形で標準報酬月額を改定できる制度です。
給与額が低下した場合、通常は随時改定の条件(2等級以上の低下)を満たさなければ標準報酬月額は変更されません。育児休業等終了時改定では、育児休業終了後の3か月間の給与の平均額が従前の標準報酬月額と比べて「1等級以上」低下していれば、標準報酬月額を改定できます。
対象は、育児休業等を終了した日に3歳未満の子を養育している被保険者です。
改定後の標準報酬月額は、育児休業終了日の翌日が属する月から起算して4か月目の給与から適用されます。
育児休業等終了時改定により改定された標準報酬月額の適用期間は以下の通りです。
1月~6月の間の改定:その年の8月まで(9月以降分は定時決定による)
7月~12月の間の改定:翌年の8月まで
届出書類
事業主は従業員からの申出を受け、「健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了時報酬月額変更届」を日本年金機構(協会けんぽの場合)に提出します。
産前産後休業終了時改定
産前産後休業終了時改定とは、産前産後休業後に短時間勤務制度の利用などにより給与額が低下した場合に、これを反映する形で標準報酬月額を改定できる制度です。
育児休業終了時改定と同様に、随時改定によることなく標準報酬月額を改定できます。産前産後休業終了後3か月間に支払われた給与の平均額に基づき、産前産後休業終了日の翌日から起算して4か月目から改定後の標準報酬月額が適用されます。
産前産後休業等終了時改定により改定された標準報酬月額の適用期間は以下の通りです。
1月~6月の間の改定:その年の8月まで(9月以降分は定時決定による)
7月~12月の間の改定:翌年の8月まで
届出書類
事業主は従業員から申出があった場合「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業終了時報酬月額変更届」を日本年金機構(協会けんぽの場合)へ提出します。
社会保険料や標準報酬月額に関するよくある質問
標準報酬月額に通勤手当は含まれる?
前述の通り、標準報酬月額の算出対象の報酬には基本給だけでなく通勤手当も含まれます。通勤手当以外の諸手当や社宅などの現物支給も同様に算出対象に含まれます。
標準報酬月額の調べ方とは?
従業員(被保険者)は給与明細により標準報酬月額を確認できることがあります。企業によっては給与明細に標準報酬月額を記載している場合があるからです。給与明細に記載がない場合でも、給与明細上の健康保険料や厚生年金保険料の金額をもとに、協会けんぽのサイト上に公開している「保険料額表」により標準報酬月額を特定することも可能です。
企業の担当者であれば、標準報酬月額の「決定通知書」により確認することができます。
社会保険料の等級とは?
社会保険料の算出に用いる標準報酬月額の等級を指します。一定の範囲の報酬月額に対して、標準報酬月額が定められる形です。健康保険料では50等級、厚生年金保険料では32等級に分かれており、等級が上がるほど社会保険料の額が高くなります。
通勤手当の管理精度が標準報酬月額の適正化につながる
標準報酬月額を算定する際には、通勤手当も報酬として含める必要があります。そのため、通勤手当の金額に誤りがあると、標準報酬月額の等級判定や社会保険料の計算にも影響を与える可能性があります。
特に、定期代の改定や住所変更への対応漏れ、不適切な通勤経路の申請などが発生すると、本来の通勤手当額と実際の支給額に差異が生じることがあります。
通勤費管理システム「らくらく通勤費」は、通勤経路や通勤手当の申請・承認・計算・管理を効率化できるクラウドシステムです。社会保険料や雇用保険料の算定に必要な月割額の自動計算はもちろん、通勤費業務の全体をカバーできるため、Excel管理や手計算をやめられます。
まとめ
社会保険料は、給与の額に基づき正確に計算することが求められます。社会保険料の計算の基礎になるのが、この記事で紹介した標準報酬月額です。
標準報酬月額は、毎年1回の定時決定をはじめ、5つの決定・改定のタイミングがあります。企業の人事労務担当者はそれぞれのタイミングで標準報酬月額を正しく計算し、遺漏なく届け出る必要があるため、健康保険法などの法令に定められる内容を正確に理解する必要があります。
社会保険料の正確な計算は、給与計算と同じく従業員からの信頼の基礎になる重要な業務です。本記事で紹介した内容をもとに、正確な業務を進められるようにしましょう。
監修者安森 将(やすもり社会保険労務士事務所 代表)
大学卒業後、大手鉄道会社の総合職を経て、社会保険労務士として開業(現職)。 人事労務分野を中心に会社経営に関する相談への対応や、働き方改革推進支援センター(厚生労働省委託事業)の専門家としての業務などに従事。大手企業各社オウンドメディア等の人事労務に関する記事執筆や監修の実績多数。